COSPA パナマ野生蘭保護活動

Semana Santa

   2019年4月21日は、キリスト教の記念日の一つのイースターでした。スペイン語では「Pascua」といい、カトリックの信者の多いパナマでも厳かに祝われたことでしょう。日曜日のキリストの復活の朝へと至る苦難で劇的な一週間を“聖なる一週間”として特別に「Semana Santa(セマナサンタ)」と呼びます。この 復活祭前の一週間パナマでは、お酒の販売がされなかったり、お肉を食べなかったりと生活の中にキリスト教が入っているのを感じられます。

   パナマにはSemana santaと言う名前のランがあります。このランの学名はEncyclia cordigeraと言いますが、パナマの国花Espititú santo(Peristeria elata)と共にパナマでは最もポピュラーなランです。パナマはカトリックの国ですから、キリスト教にちなんだ名前が付いたランが多いです。Semana santaは大木の枝や牧柵、軒先などにまるでシンビジウムのように大きな個体が繁殖しています。パナマでは以前は切り花で花を観賞する習慣はなく、家々では庭に沢山の花が栽培されており、カトリックの聖週間の頃(ちょうどこの記事の書かれている頃です!)にカラフルな良い香りのする花を咲かせます。

Encyclia cordigera, Montejo

   Encyclia cordigeraの命名はいばらの道を歩んできました。

   初め、1815年学名として ラテンアメリカには存在しない Cymbidium の分類としてCymbidium cordigerumと命名して記載されましたが誤りでした。( Cymbidiumはアジアの植物です。)
   その後唇弁がピンクの個体がEpidendrum atropurpureum va roseumと命名されましたが、 葦状の細い茎 のEpidendrumと玉ねぎ様の球茎のこの植物は明らかに違っていました。しかしこの誤りは1964年に現在の名前に訂正するまで続きました。
   さらに問題を混乱させたのは、1886年に白リップのEncycliaの 絵とされたものがEpidendrum atropurpureum var. randiiとしてランの図譜Lindeniaに発表されたことでした。実際に描かれていた植物は全く異なるブラジルの種Encyclia randiiでした。変種でないのに変種名「randii」をつけられたのでした。今日でも、Encyclya cordigera var randii.として販売されているのを見かけます。そのほか非常に珍しいアントシアニン色素を完全に欠いた純白の個体もあり、市場の表記はさらに混乱しています。 また純白のリップで花弁と萼片の緑色の個体のEncyclia cordigera forma leucanthaが、市場では通常var albaと表示されています。
   現在では、主要なデータベースでは、単にEncyclia cordigera(Kunth)Dresslerと言う表現のみが受け入れ、リップの色の異なる個体も同じものと見なされています。

   キリストの苦難の一週間の別名を持つこの植物が、命名へと至る苦難のエピソードを持つのは面白いですね。