COSPA パナマ野生蘭保護活動

パナマのランの故郷

   パナマのランの故郷は基本的に南米大陸です。 そう言える理由と、あえて”基本的”とつける訳を見てみましょう。

   ラン科植物が生まれるはるか昔、今から2億年前の三畳紀には地球上に二つの超大陸がありました。北側のローラシア大陸と南側のゴンドワナ大陸です。

   ローラシア大陸からヨーロッパ大陸や北アメリカ大陸などが生まれ、ゴンドワナ大陸からアフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸などが生まれて、今日の地球の大陸の骨格ができたとされています。ラン科植物は今から8000万年前の白亜紀後期にゴンドワナ大陸で生まれ、アフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸などで別々に進化を遂げました。

   ランがパナマに侵入したのは陸続きの南米大陸か北米大陸からでしょう。けれど、北米大陸のもとになったローラシア大陸にはランは存在しなかったのですから、パナマのランは南米大陸からやってきたのでしょう。ランが南米大陸からパナマにいたる道筋は?あたりまえでしょう。南米大陸の北の端・コロンビアから陸伝いにパナマに侵入したのでしょう!!一寸待ってください。そう単純に結論付けるわけにはいきません。

   パナマ地峡が陸地になったのは今から300万年ほど前です。南米コロンビアの地質は古生代3億年以上前に成立しており、中米コスタリカやニカラグアの地質は古第三紀(6600~2700万年前)の岩石から形作られています。パナマは随分新しい土地なのですね。ランがパナマ地峡に入ってきたのは陸地になってからのことになります。ただし、突然パナマ地峡全体が海底から持ち上がったわけではなく、1500万年前以降南米コロンビアと中米コスタリカの間のカリブ海に点々と島が生まれ、最終的にこれらが繋がってパナマ地峡が成立しました。ですからランは島伝いに南米大陸から侵入し、それぞれの島で固有の種に進化して現在のパナマのランのもとになったと考えられます。 

   もう一つランがパナマに侵入したルートが考えられます。それは北米よりのコスタリカから入ってくるルートです。今から3000~2300万年前、まだパナマ地峡は生まれていませんでした。ところが、南米大陸から、カリブ海のアンチェル諸島(キューバやプエルトリコなど)からメキシコのユカタン半島にかけてガアランディアと言う長大な陸橋が存在し、カエルや淡水魚シクリッドなど多くの動植物が南米大陸からユカタン半島に上陸したという説があります。ラン科植物だけが例外であったとは考えられません。特にラン科植物の種子は非常に小さく、軽いので風で遠くまで飛ばされ、容易に広い地域に分散されます。

   ご存知のバニラアイスクリームの中に入っている黒いプチプチはラン科植物Vanillaの種です。大変古いランであるVanillaの仲間はランとしては珍しくつる性で、7500万年も前に南米大陸で他のラン科植物から枝別れしたものです。Vanilla属で特に古いVanilla節の植物は南米大陸、カリブ諸島、フロリダ半島、メキシコ、中米に分布していて、新しい陸地であるパナマ地峡が成立する以前にガアランディアを経由してユカタン半島に侵入したと考えられます。ですから、パナマ地峡が成立した後にコスタリカ側からパナマ地峡に侵入した可能性があります。この仲間のVanilla inodoraはメキシコからパナマにかけて分布しますが、南米大陸には分布しません。

   つまり南米大陸が故郷のランはパナマ地峡が成立してから南米から北上したものと、南米・ガアランディア・メキシコ・パナマと言う経路をたどって北から侵入したものがあったと言うことです。

   このようにパナマの多くのランの故郷は南米大陸ですが、更に少数ですがこれと異なった故郷を持つものがあります。これから数回に分けてそれらのランの出身地調査をしてみましょう。