COSPA パナマ野生蘭保護活動

APROVACA

   ~パナマでのランの保護活動~

※このお話はAPROVACAの活動を支援しているCOSPAの観点から書いています。

APROVACA名称の由来

   APROVACA(アプロバカ)とはずいぶん変わった名前ですね。バカなんて付いた変な名前は日本ではそうそう聞いたことがありません。スペイン語を理解できる方ならば、Vacaは牛のことなので、牛飼いの団体かと思うかもしれません。

   APROVACAはLa Asociación de Productores de Orquídeas de El Valle y Cabuyaの略です。日本語にするとエルバジェとカブジャのラン栽培家協会と言うことになります。カブジャはエルバジェの隣の村です。パナマではこのような省略の仕方が一般的に行われます。

   例えば、パナマの環境庁はANAM(Autoridad Nacional del Ambiente)ですし、運河庁はACP(Autoridad del Canal de Panama) 、パナマ運河流域保全計画はPROCCAPA (Proyecto de Conservación de la Cuenca del Canal de Panamá )です。ですからパナマ人にとって APROVACAはごく自然な名前で、 今やAPROVACAは省略形ではなく正式な名称です。

創設決定までの経緯

   APROVACA結成までの経緯
   ~ APROVACA設立にかかわった日本人ボランティア明智の話~
   もう20年も前のことになりますが、2000年から二年間の私のパナマでの活動について述べさせて頂きます。
   私がJICAによってパナマに派遣された目的は絶滅に瀕したパナマの野生ランを守ることでした。初めに行ったのは、パナマのランが貴重なことを市民レベルで認識してもらい、これを守って行く活動です。エルバジェから約30Km南西の太平洋に近い アントン市に住んで、地元にラン愛好家の会Asociación de Orquideología de Antónを結成し、小学校を回ったり、公民館などで講演をしたりして、街の人たちに野生ラン保護の重要性を説いて回りました。
   次に野生ランの宝庫と言われるエルバジェで野生ランの採取と販売を生業としている山岳農民とランを守るボランティアの会APROVACAの結成をお手伝いして、熱帯雨林からのランの採取をやめて、園芸的価値の高いランの栽培を指導する活動をしました。
   最後にパナマの環境庁ANAMの協力を得て、野生ランの保護並びに栽培を指導するセンターを設立する企画を進めました。この企画に在パナマ日本大使のご理解を頂き、APROVACAが日本の草の根無償資金援助を受けることになりました。私はパナマで絶滅が危惧される野生ランの保護のためにパナマ全土に野生ラン保護センターが必要だと考えています。APROVACAはその試金石になるものです。

   更地から建設までのエピソード
   APROVACAはラン保護センターCEPROVACAを建設するための用地の取得をパナマの国会に陳情し、これが2001年の終わりに認可されました。エルバジェ村の3か所の国有地がCEPROVACA建設の候補地に挙げられましたが、その一つが現在のAPROVACAの所在地です。ここはエルバジェ火山のカルデラにあるエルバジェ村へのメイン道路から250mほど西に入ったところで、昔トリホス将軍の別荘地でした。広い敷地は長らく家畜の屠殺所に使われていましたが、CEPROVACA建設当時はその一部に環境庁のエルバジェ事務所があっただけで、それ以外は遊休地でした。APROVACAに使用が許可されたのは約100坪です。
   施設の設計は日本人ボランティアが担当し、建設資材は地元の工務店から購入。労働力はAPROVACAの会員が担当しました。CEPROVACAは全て地元の資材と労働力で建設され、パナマ市の業者や、まして日本からの資材は一切使われませんでした。建設は2002年に入って始められ、3月の終わり、建設にかかわった日本人ボランティアの帰国の3日前に竣工しました。

   CEPROVACA建設から今日まで
   日本人ボランティア帰国後、APROVACA会員が施設の管理に当たりましたが、管理のノウハウもなく、収益の見込みがないため、生計の糧を当てにしていた会員はやめてゆき、センターは一時開店休業状態でした。
   帰国した日本人ボランティアはこの情報を耳にし、日本にAPROVACAの運営を指導する組織COSPAを設立し、かつてパナマに派遣された多くのボランティアが結集し、APROVACAの支援に当たりました。
   COSPAからAPROVACAへ最初に派遣されたボランティアは三浦ふづきさんです。三浦さんは、保護センターは収益を上げ、センターで働く人の給与を稼ぐ必要があると考え、二つの大きな具体策を提言しました。第一は施設のコンセプトを「採って売るから作って見せる」とする入場料を取って見せる施設に転換し、雇用も生み出すというものでした。これが現在のAPROVACAの姿です。第二に重要な保護の対象であるパナマ国花エスピリトサントのオーナー制度による保護栽培です。オーナーは自らの株を持ち、管理費をAPROVACAに支払って栽培を委託し、保護に協力をするというものです。三浦さんはこの課題を成功させるため、パナマに永住することを決意し、パナマの企業に就職して休日はエルバジェのAPROVACAに通い、指導に当たりました。
   見せるラン園は他の観光施設に比し規模が小さく、沢山栽培しているランも年に一度しか開花しません。折角入園料を払って入ってくれたお客さんをどうやって満足させるかが、思案のしどころでした。そこで入園者全員にガイドを付けることにしました。ガイドは山に入ってランを取っていた人たちですから花のことは良く知っています。入園者はガイドの説明に納得するとチップをはずんでくれることもあります。ガイドは花の解説をするだけでなく、なぜこの施設があるのか、パナマのランを守ることがなぜ重要なのか、どのランの絶滅が心配されるのかなど、パナマの野生ラン保護について解説します。

   ところが残念なことに2006年1月三浦さんはエルバジェで突然倒れ、なくなりました。

APROVACA施設内にある三浦さん追悼の碑

   一方、COSPAは日本からパナマへエコツアーを送ることにしました。APROVACAは日本から送られたツアーのパナマ国内の旅の企画し、手配して運営資金源としました。このツアーは2007年、2008年、2009年、2011年、2014年と5回実施されました。
   入園者にガイドを付ける方針には困難な問題がありました。入園者の多くは欧米の観光客でスペイン語を理解しません。一方、説明に立つガイドはエルバジェの山の住民ですから、英語が話せません。この問題を解決したのは2008年にJICAから派遣されていた青年海外協力隊員佐藤さんでした。彼はスイスの大学で学んでいたのでヨーロッパの大学から英語を話せる学生ボランティアを集め、外国人観光客の説明に立たせました。
   また、同じ年にAPROVACAはCOSPAから派遣された副代表兵藤の指導により会計システムINCENTIVOを導入しました。それまでAPROVACAの会計処理は手計算でしたが、非能率かつ金額が合わないことが多く問題になっていました。INCENTIVOは、それを解決する重要なシステムになりました。その改良のために2012年にCOSPAから兵藤が再度派遣され、改良や修正はインターネット上で日本から行うことができるようになりました。その後INCENTIVO が故障した場合の緊急対応としてAPROVACAが独自で運用できる緊急プログラムもCOSPA会員の石川さんが作成しました。
   APROVACAメンバーは独自に収益を上げるプランを策定し、2010年には既存の施設を改造して、宿泊施設Hostal Orquideaを開業。この施設を利用する多くの若者は無料でラン園を見学でき、野生ランの保護の重要性を知る機会となっています。
   APROVACAを訪れる静かな心安らぐ音楽が流れています。この音楽はCOSPA会員平田さんの依頼で日本の作曲家加賀谷俊介さんがAPROVACAのために作曲したものです。このCDはAPROVACAで販売されています。
   COSPAは、APROVACAをエコツーリズム基盤とする施設として充実させるJICAのプロジェクトを立ち上げ、副代表西村さんが陣頭指揮にあたり、 CEPROVACAの充実に留まらず、パナマ環境庁のセロガイタール自然保護区に自然観察路の整備するプロジェクトにも取り組みました。APROVACAに対して、COSPAから2009年に高田さんが、2010年にはプロジェクトの仕上げにCOSPA代表明智が、2011年には副代表兵藤が派遣されました。また、パナマではCOSPA会員の松井さんが常時APROVACAとCOSPAの間の連絡役に立ってくれました。
   パナマ政府はAPROVACAの活動を高く評価し、2012年このプロジェクトにかかわったAPROVACAとCOSPAの代表者としてCOSPA代表明智に対してパナマ共和国のアマドール勲章を贈りました。
   2013年エルバジェの野生ランの写真を使ったパナマの野生ランデータベースのCDが完成し、APROVACAとCOSPAから発売されました。このデータベースは2015年からCOSPAのホームページで閲覧できるようになりました。
   エコツーリズムによるAPROVACAの充実計画はパナマ政府及び在パナマ日本大使館も大いに賛同するところとなり、 2014年敷地が2倍以上に拡張され現在の姿になり、APROVACAは第二回目の草の根無償資金援助を得て、自然保護教育講習施設も建設されました。これをもってAPROVACAの運営はようやく自立できるまでになりました。2016年JICA青年海外協力隊員として木村さんがAPROVACAに派遣され、INCENTIVOの補修改良のために兵藤が短期に派遣されました。2017年には千葉大学とパナマ大学の共同プロジェクトとしてパナマの野生ラン保護プログラムが発足、APROVACAも野生ランの種子採種などでこのプロジェクトの一端を担うことになりました。2018年APROVACAに派遣されていた木村さんは帰国。2019年には新しい青年海外協力隊員がAPROVACAに派遣される予定です。


   今日のAPROVACAは旅行投稿サイトTripadvisorでエルバジェの観光施設としてトップランクに揚げられるまでになりましたが、大変小さなNGOが運営する施設で、資金も人材も底が浅く、常に多くの支援者の支えを必要としています。今後とも皆様の厚いご支援をお願いいたします。