COSPA パナマ野生蘭保護活動

エルバジェのラン

Miltoniopsis

エルバジェ ってどんな所?

   この記事に辿り着いた方々なら何回か目にした地名、エルバジェ。私たちのランの保護活動のパナマ側の中心地。はたしてどんな所なのでしょうか。

   エルバジェ(正式にはEl Valle de Antón)はパナマ中央部の太平洋側にある人口7500人ほどの村です。スペイン語でEl Valleとは谷を意味します。エルバジェはエルバジェ火山のカルデラの底にある直径5kmほどの平地で、1万年ほど前までは火口湖だったそうです。エルバジェ火山の外輪山は標高1,300mありますが、カルデラの底の標高は700mほどで、パナマ市など海辺の都市では一年中気温が日中40℃にも達しますが、エルバジェの気温は一年中最高30℃、夜間は20℃を下回り、夜間に吹く太平洋からの湿った風で夜霧が吹きおろしランなど着生植物の生育に好適です。エルバジェは首都パナマ市から西に120kmほどで、古くからパナマの山岳別荘地として有名です。

   エルバジェ火山の外輪山は熱帯雲霧林で覆われていて、平坦地がほとんどなく、かつては雲霧林の中でコーヒーの栽培などが行われていましたが、今では地域住民は別荘地に販売する野菜や花の小規模な栽培、別荘地の草刈りなどの庭園管理の日当でわずかな収入を得ています。最近ではエルバジェは観光地として有名になり、レストランやお土産店など観光事業に働く人も多くなりました。

エルバジェ と ラン

   エルバジェの周辺は山岳地帯の熱帯雲霧林ですから非常に植物の種類も多く、他の地域にはない固有のランがあったりします。古くからランの宝庫として知られ、特にパナマ市にあるSmithsonian熱帯研究所のDr.Dresslerらの研究の場でした。現在外輪山の一つCerro Gaitalは自然保護区になっていて、環境省が管理していますが麓の集落Alto la mesaから登山道が整備されていて登ることができます。

Miltoniopsis

    エルバジェでよく見かけるランにMiltoniopsisがあります。エルバジェに分布するMiltoniopsisはMiltoniopsi roezliiMiltoniopsis warscewicziiの2種です。

    Miltoniopsisの仲間は南米ペルーから中米コスタリカまでに分布するランで、歴史的にもまたMiltoniaとの交配種の作りやすさからもミルトニアと言われることもあります。しかし、Miltoniopsisの花は唇弁も花弁や萼片も扁平で丸みを帯び、花全体が一枚の切り絵のようですが、本来のMiltoniaは南米大陸のランで、花の形も花弁や萼片は細くMiltoniopsisとは違っています。MiltoniopsisMiltoniaはオンシディウム亜族に属し、南米大陸から北米大陸のメキシコまで分布します。Miltoniopsis属(6種)は主にアンデス山地に、また一部がパナマ地峡(2種)やブラジル(1種)に分布します。(図1  Miltoniopsis属の地理的分布)

   オンシディウム亜族のランはゴンドワナ大陸から南米大陸へ分布を拡大した植物を起源とし、オンシディウム亜族のMiltoniopsis属はアンデス高地で多くの種が分化し、パナマ地峡にはその内限られた種が分布している点から始源植物はアンデス高地にあったと推定されます。そして分布地域を拡大するに伴って形態的特長の異なった個体を生じて、それぞれが分布地域を異にして行き、その結果、分布した地域で新たな種となったであろうと推定されます。このようにして生まれた種が現在のMiltoniopsis属の地域的分布の基礎になりました。

   Miltoniopsi roezlii (Rchb.f.) Godeflroy-Lebeufの分布はペルー、エクアドル、コロンビアのアンデス高地からパナマまでの広域に及びますが、パナマにおける分布の中心がエルバジェ 及びそれ以西であること及びエルバジェ火山の活動が盛んになり、現在のような地形が成立したのは100~200万年前であることを考慮すると、本種がパナマに分布したのはパナマ地峡成立(約350万年前)後の比較的新しい時期だと思われます。Miltoniopsis warscewiczii (Rchb.f.) Garay & Dunst.の分布はパナマ地峡(パナマ及びコスタリカ)に限られ、Miltoniopsi roezlii がパナマ地峡まで分布域を拡大した後、形態的に変化して成立した種だと思われます。