COSPA パナマ野生蘭保護活動

Neomoorea wallisii

   今回は絶滅の危機に瀕しているランの種についてです。

   Neomoorea wallisiiはパナマなど限られた地域に生息するセッコク亜科Maxillarieae連Lycastinae亜連に属する一属一種の大型で美しい絶滅危惧ランです。

   本種は、熱帯雲霧林内に半着生あるいは地生する大型のランで、溝のある扁平な大きな球茎を持ち、球茎頂部から二枚の刺身や料理の仕切りに使われるハランのような厚い大きな先端がとがった葉(幅22cm、長さ1m以上)を生じます。乾季(12月から1月ごろ)球茎の基部から約60cmの花穂を直立させ、蝋質で香のある花を10-20輪つけます。花の色はラン科植物には珍しくカボチャのようなオレンジ色で、その香りは甘いジャスミンのようだと表現されます。

   本種は1890年にRobert A. RolfeによってMoorea irrorataの名称で報告され、 その14年後に彼自身によって属名をNeomooreaに変更されました。その理由はMooreaと言う属名はすでに他の植物に使用されていたと言うものでした。1991年になって、1876年にReichenbach によってLueddemannia wallisii として報告されていた植物がRolfeによる種の記載に合致することが植物学会によって認められ、最終的にNeomoorea wallisiiと言う名称が採用されました。NeomooreaMooreaはダブリン のGlasnevin 植物園のキューレーターF.C. Moore に、wallisii はドイツのラン収集家Gustav Wallis (1830-1878)に因んでいます。

   本種はHoulletia 属や Stanhopea属と同様、ハリナシバチ(Euglossine bee)によって交配されます。オスバチはNeomoorea wallisiiの花から香り成分の入った液体を集めにやってきますが、この液体はハチの食料ではなく、メスバチを引き付けるためのもののようです。

ランの花に寄って来るハリナシバチ
Houlletia
Stanhopea

    Neomoorea はパナマ東部やコロンビア北部が原産で、エクアドールにも分布するという報告がありますが、他の地域には分布していません。パナマでは太平洋岸の山岳地帯に分布し、高温条件下では花が咲きにくいようです。パナマの著名なラン収集家・故Andres Maduro氏は、お父さんの時代にはエルバジェの川岸の土手に普通に見かけた植物だったと語っていましたが、今から20年ほど前にはすでにエルバジェの自生地は失われ、エルバジェの外輪山の上の部落La mesaで農家によってわずかに栽培されているだけでした。 まさに限られた地域の固有種で、絶滅が危惧される植物だと言えます。